なぜ「枯れた技術」の半導体が一番手に入らないのか?40nmプロセスのジレンマ

最新のスマホに搭載される 3nm や 5nm の最先端チップより、炊飯器・給湯器・エアコン・農機具・産業機械に使われている 古い40nm〜130nmクラスの半導体の方が手に入りにくい

一見すると矛盾したこの現象は、2020年代後半の半導体不足の中心的テーマとも言える。

本記事では「なぜ古い技術の半導体が枯渇し、入手最難関になっているのか?」を、業界構造と市場の変化からわかりやすく解説する。


設備投資がされない「古い工場」

半導体メーカーは、限られた設備投資予算を 利益率の高い先端プロセス に集中させるのが一般的だ。

理由は非常に単純で、古いプロセスで作る安価なチップは利益率が低く、投資を回収するのが難しいためである。

●なぜ古いプロセスは儲からないのか?

  • 1個あたりの販売単価が安い(数十円〜数百円)
  • 利益率が低いので、作っても大きくは儲からない
  • 工場の維持コスト(電気代・材料費・人件費)は年々上昇
  • 設備が古くなるほど歩留まりが落ちる

こうした事情により、メーカーは

  • 40nm
  • 55nm
  • 90nm
  • 130nm
  • 180nm

といった“枯れた技術”のプロセスに新たな設備投資をしなくなった。

結果として、古いプロセスを使うチップの供給能力は毎年じわじわ減少 しており、需要が増えたときにラインが拡張されることはほぼない。

これが「枯れた技術のチップほど入手困難になる」最大の原因である。


2025年以降も続く「レガシー不足」

実は、古いプロセスで作られる半導体の需要は減るどころか 増え続けている

その背景には以下の大きなトレンドがある。

●IoT機器の爆発的普及

スマート家電、産業IoT、農業IoT、環境センサーなど、小規模で省電力の機器には高性能な先端チップは不要で、むしろ

  • 低価格
  • 安定供給
  • 長期販売
  • 低消費電力

といった古いプロセスのマイコン(MCU)やアナログICが適している。

IoT機器は 2020年代に入り世界中で加速度的に増えており、40nm〜130nm帯の需要が急増している。

●白物家電・住宅設備・産業機器の長寿命化

炊飯器、給湯器、空調、 FA機器、産業ロボット、農機具など、寿命10〜20年の機器は、簡単には設計変更できない

そのため、古いマイコンやロジックICを長く買い続ける必要がある。

しかしメーカーは古い製品を次々と廃番にするため、部品の調達難易度が上がり続けている。

●EV(電気自動車)による電源IC・アナログICの争奪戦

EV は高電圧・高電流を扱うため、

  • パワーMOSFET
  • ドライバIC
  • センサIC
  • 車載マイコン(多くは40nm)
    が大量に必要となる。

ここ数年のEVブームは、レガシー半導体の市場吸収力が非常に大きく、汎用品の供給を圧迫している。


まとめ:「古い=安い・いつでも買える」は完全に間違い

これからの半導体調達では、
「古い技術=安定供給」ではなく
「古い技術=投資されない=最も枯渇しやすい」

という構造を理解しておく必要がある。

特に約40nm世代のマイコン・電源IC・アナログICは、

  • IoTで需要急増
  • 工場増設はほぼゼロ
  • 大手メーカーは車載向けを優先
  • 汎用品は後回し

という構造的不足が続くと見られており、2025年以降も状況は改善しにくい。

「古いものほど早く手に入らなくなる」 という逆転現象はすでに現実であり、設計者や調達担当者は従来の感覚を捨て、代替候補やマルチソース化を前提にした設計・運用が不可欠となるだろう。